東京高等裁判所 平成6年(行コ)8号 判決 1994年6月15日
主文
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人ら
1 原判決中控訴人らに関する部分をいずれも取り消す。
2 本件を横浜地方裁判所に差し戻す。
二 被控訴人
本件控訴をいずれも棄却する。
第二 当事者の主張及び証拠関係
次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示のうち控訴人らに関する部分のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決についての付加、訂正
1 原判決二枚目表末行の「大字」を削る。
2 同六枚目表五行目の「身体」の前に「生命、」を加え、同裏七行目の「右」を「前記」に改める。
3 同一〇枚目表五行目の「開発」の次に「行為」を加える。
二 当審における主張の付加
1 控訴人ら
処分の効力を争う者がその効力を否認するにつき実質的な利益を持つ場合においては、それが実体法上積極的に保護されたものではないときでも、行政事件訴訟法九条の「法律上の利益」を有する場合に当たると解するのが相当である。本件において、控訴人らは、近隣住民として良好な生活環境を維持しこれを享受するために、違法な本件処分の取消しを求めているものであり、その原告適格は認められるべきである。
都市計画中央審議会の「快適で質の高い街づくりのあり方検討委員会」は、平成五年一二月に中間報告を取りまとめ、その中で、「今後の街づくりにおいては、都市生活者は創り手=住み手との新しい発想を、また、市町村は生活者のニーズを把握し、利害関係の調整を行いつつ地域の街づくり計画をまとめる立場としての役割を、国・都道府県は市町村を支援する役割を、企業は地域で活動する市民として地域貢献への社会的責務をそれぞれ認識して関係者が主体的に参加する必要がある。」「新たな街づくりには、住民、企業の主体的参加が必要であり、地域全体の向上が自分たちの利益、効用をも増進させるという発想への転換が必要である。」「さらに、地区計画の実現のために土地の交換や費用などをそれぞれ負担し、地区施設を地域で管理するなど計画の策定、実現、維持管理のすべての段階で負担の共有と参加のルールの確立が必要である。」と指摘している。
このように、政府においても、今後、都市計画の分野には、地域住民の積極的な参加が不可欠であるという議論は最早当然のものとなっている。控訴人らは、まさに「街づくりに主体的に参加し、地域全体の向上が自分たちの利益、効用をも増進させる」という中間報告を先取りした精神で本件訴訟を提起しているのである。
また、都計法は一般個々人の具体的な権利、利益の保護を目的とするものではないとし、したがって、周辺居住者の利益は反射的利益にすぎないと解釈して、付近住民の原告適格を否定することは、同法三条二項が「都市の住民は、国及び地方公共団体がこの法律の目的を達成するため行なう措置に協力し、良好な都市環境の形成に努めなければならない。」と規定し、住民に良好な都市環境を形成するための義務を課している同法の立法趣旨にも反するものである。
2 被控訴人
争う。
理由
当裁判所も、控訴人らは、本件処分の取消しを求める原告適格を有しないものと判断する。その理由は、原判決一三枚目表末行の「都市計画」を「都市生活」に改め、同一五枚目裏八行目の「一ないし三」の次に「(同号証の一は原本の存在とも)」を、同九行目の「一ないし二二」の次に「(原本の存在とも)」をそれぞれ加え、同一八枚目表二行目の「態様」を「規定の仕方」に、同八行目の「の一条項」を「に掲げる各号のうちの一」に改めるほか、原判決理由説示のうち控訴人らに関する部分のとおりであるから、これを引用する。控訴人らが当審において主張するところは、独自の見解又は立法論に類するものであって、採用することができない。
よって、原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。